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大阪高等裁判所 昭和62年(ラ)326号 決定

抗告人

信用組合大阪商銀

右代表者代表理事

姜宅佑

右代理人弁護士

曽我乙彦

佛性徳重

清水竹之助

主文

原決定を取消す。

本件を大阪地方裁判所に差戻す。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

二当裁判所の判断

1  本件記録によれば、抗告人は昭和六二年二月二七日原裁判所に、債務者伊藤敏夫に対する執行力ある判決正本に基づく、元本債権金三四二二万三四六八円の一部金六〇〇万円と右損害金を執行債権として、別紙不動産目録記載の不動産の強制競売を申立て、同年三月六日強制競売開始決定がなされたこと、抗告人は同年五月二〇日右元本残額金二八二二万三四六八円とこれに対する損害金による配当要求を申立てたところ、原裁判所は、強制競売における配当要求は元来執行債権者でない債権者が、当該競売手続における売得金の処分について異議を述べ、自己の債権への分配を要求する行為であるから、債権の一部による執行を申立てた債権者が、残債権の執行申立を控えたままで別途に配当要求の方法をとることにより、執行申立をしたのと同様に残債権への分配を受け得るとすることは手続の原則に反し、登録免許税の負担軽減の目的による一部執行申立の濫用を招くおそれもあるから、右債権者は残債権に基づく執行申立をすべきであるとして、抗告人の右申立を却下する決定をしたこと、以上が明らかである。

2  よつて案ずるに、民事執行法上、執行力ある債務名義の正本を有する債権者は、自ら強制執行を申立てるか、あるいは既に開始されている強制執行手続に配当要求を申立てて右配当に預かることで満足するか、そのいずれを選択することも自由であり、右債権者が右債務名義の請求権の一部についてこの選択をすることも、同法の当然予定しているところである(強制執行申立につき民事執行規則二一条四号)。そして、執行債権者がその執行手続において、右選択をすることを禁じていると解すべき明文の根拠はなく、また、同法五一条一項は配当要求ができる一般債権者を、執行力のある債務名義の正本を有する者に限定したが、右法条の趣旨が、更に、右債権者が債権の一部執行の申立をした以上、その執行手続において残債権について配当要求が許されず、前記選択権がなくなるとすることまで含んでいるものと解することも困難である(登録免許税の問題は別途に考えるべきである。)。

3  よつて、これと見解を異にし抗告人の配当要求を右の理由で却下した原決定は失当であり、本件抗告は理由があるから原決定を取消し、原裁判所に差戻すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官上田次郎 裁判官阪井昱朗 裁判官川鍋正隆)

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